@article{oai:tsuru.repo.nii.ac.jp:02000065, author = {ザカリア,サジール/ヨアン,モリネロ,ジェルボー/ ジェンナーロ,アヴァッローネ 著 / 上野,貴彦/飯田,悠哉 訳}, issue = {99}, journal = {都留文科大学研究紀要}, month = {Mar}, note = {要旨  新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)に対する感染拡大防止措置は、食料サプライチェーンの安定を大きく脅かした。スペインとイタリアでは、パンデミック最初の数ヶ月で早くも農業労働力の不足が顕在化し、食料安全保障に移住農業労働者が不可欠なことが明らかになった。そこで本稿は、パンデミックが農業労働や移民に対する国民や政界の態度を変えることに貢献したのか、西伊両国での季節移住労働者や工業型農業をめぐる議論でいかなる認識が優勢だったかの 2 点を、批判的言説分析を中心に複数の分析手法を併用しながら検討する。具体的には、メディアにおける言説、関連する法律や行政の施策、2 次統計データ、さらには移住農業労働者や労働組合がブログ、ウェブサイト、Facebookアカウントから発信する自己表象と提言を分析した。その結果、パンデミックで移住農業労働者の果たす重要な役割や労働搾取の実態が明るみに出たにもかかわらず、可視性の向上が具体的な政策や認識の転換に移行しなかったことが明らかになった。労働と資本の分離という擬制に問題の核心がある以上、資本の論理にもとづく欧州先進国経済の主要な議論において、移住農業労働者は周縁化されたままなのである。 訳者解題 本稿の概要  本稿は、スペイン高等学術研究院・人文社会科学研究所(CCHS-CSIC)の経済学・地理学・人口学研究所が刊行する学術誌『地理研究』に掲載された論文[Sajir, Z., MolineroGerbeau, Y., & Avallone, G. (2022). “Todo cambia, todo sigue igual”. La gobernanza de la mano de obra migrante en la agricultura española e italiana en el primer año de la pandemia de COVID-19. Estudios Geográficos, 83(293), e114. https://doi.org/10.3989/estgeogr.2022120.120]の日本語訳である(日本語タイトルは訳者による)。  スペインとイタリアは、欧州で最初に新型コロナウイルスのパンデミックを経験し、保健衛生の面に限らず、社会・経済的な「危機」が欧州のなかで最も深刻化した国々である(上野 2020)。本論文は、こうした「危機」において浮き彫りになった、両国の農業と労働、そして人の移動の諸特徴を、パンデミック以前から継続している側面と、パンデミックにおいて新たに現れた側面の両方から捉え、分析するものである。  国境閉鎖措置を伴ったパンデミック危機は、国際的な移住労働に深く依存する欧州のアグリ・フードシステムの食料安全保障上の危機でもあった。この危機は、欧州の人々の日々の食生活がいかにEU圏内外からの外国人労働者によって支えられているか、にもかかわらず、いかにかれらが法的・経済的・社会的に脆弱な地位に留め置かれ、低賃金や過重労働、不衛生かつ狭小な居住環境や限定的な医療アクセスなど、劣悪な労働・生活条件に覆われてきたのか、いわば「エッセンシャルワークの逆説」(酒井 2021)的状況を人々の認識にのぼらせた。こうした状況にあって筆者らは、パンデミック最初の一年に両国で農業と移住労働をめぐって展開された、拮抗する政治的ナラティブを鮮やかに整理・分析してみせている。  そこでは、「全てが変わり、何もかわらない」というタイトルに示された、「危機」をめぐる情勢理解が導かれる。筆者らは一方ではパンデミックが契機となって、農業労働者の生活・労働の諸条件の改善や諸権利の保全を求めるナラティブがこれまで以上に聴衆を獲得するという、新たな機運が生まれたことに注目を促す。こうした機運はコロナ禍にあってもなお、社会的持続に不可欠な部門で働き続けている移住労働者の姿に脚光が当てられたことによるもので、この点で危機は新たな言説配置を生み出した。それらは、(左右から批判されてはきたが)イタリアで時限的な正規化措置が実施されるなど、いくつかの具体的な措置に結びついたことも確認される。  他方で筆者らは、両国で優勢であり続けたナラティブや政策措置は、本質的には危機的な状況にあって食料生産のための労働力を平時と変わらずに確保するという、功利主義的な態度のもとにあり続けたと分析する。移住労働者は数が揃えば権利と福祉を剥がれた状態でも良いという政治的態度、つまり「本質的に労働力であり、それも暫定的、一時的な労働力という過渡的な状態」(Sayad 2007: 50)としてのみ存在を許されるという、パンデミック以前からの政治的態度はここにおいて継続されてきた。その結果、移住労働者らの労働・生活諸条件の向上や感染リスク回避のための政策的措置は部分的にしか採られず、実際、農業労働者から多くの感染者が出ることに繋がった。  筆者らは、パンデミックで露呈したこれらの状況を、たんに農業という例外的な部門での例外的な例として資本主義社会一般から切り離し、その解決を一部門・一産地での労使問題に収斂させるべきではないとする。むしろ、筆者らが要請するのは、より広く資本主義と社会的公正や持続性の問題として、つまり「EU 内のソーシャルダンピングや不公正競争といった核心的な問題」として、あるいは「資本と結びついた労働、急速に高齢化する社会といった、『私たち』の未来について」の議論の活性化であり、その重要な要素として農業・食料労働者らの生活・労働の諸条件と諸権利を位置づけていく議論である。あたかも労働問題などないかのように、欧州各地の農業経営者らが環境規制や農産物輸入に抗してデモを繰り広げている現状もまた、原著者らの指摘の重要性を浮き彫りにしている。以下では、こうした分析と結論に至る原著者らの問題意識を、環地中海農業と移民に関するかれらの研究蓄積の上に位置付けておきたい。}, pages = {215--242}, title = {全てが変わり、何も変わらない―コロナ禍1年目におけるスペインとイタリアの移住農業労働ガバナンス―}, year = {2024} }